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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)6140号 判決 1981年4月16日

両事件原告 高澤郁三

右訴訟代理人弁護士 根岸隆

同 町井洋一

両事件被告 財団法人首都圏不燃建築公社

右代表者理事 三橋信一

右訴訟代理人弁護士 草野治彦

同 上野健二郎

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一  被告は原告に対し、金五九七万七八八一円及び内金五四万五八七六円に対する昭和四九年一〇月一日から、内金五四万五八七五円に対する昭和五〇年四月一日から、内金五〇万〇七五七円に対する昭和五〇年一〇月一日から、内金五七万六七八七円に対する昭和五一年四月一日から、内金六五万二八一八円に対する昭和五一年一〇月一日から、内金六二万〇四〇六円に対する昭和五二年四月一日から、内金五八万七九九四円に対する昭和五二年一〇月一日から、内金五八万七九九四円に対する昭和五三年四月一日から、内金五八万七九九四円に対する昭和五三年一〇月一日から、内金七七万一三八〇円に対する昭和五四年四月一日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告に対し、別紙物件目録(一)、(二)記載の各土地について、東京法務局新宿出張所昭和三九年一一月一三日受付第二五六一六号の地上権設定登記の抹消登記手続をせよ。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  第一項につき仮執行の宣言。

(請求の趣旨に対する答弁)

主文同旨。

第二当事者の主張

(請求原因)

一  原告は、別紙物件目録(一)、(二)記載の土地(以下、本件土地という)を所有する者であり、被告は、首都圏の住民に不燃住宅を供給販売すること等を目的とする財団法人である。

二  原告は、昭和三九年秋ころ、被告との間において、本件土地について、概要次のとおりの地上権設定契約(以下、本件地上権設定契約という。)を締結した。

目的 堅固なる建物所有のため

期間 昭和三八年五月二一日から六〇年間

地代(月額) 本件土地の固定資産税評価額に一〇〇〇分の二を乗じて得た額

地代支払期日 毎年三月末日及び九月末日、ただし、地代の支払を開始するのは地上権設定登記の完了した月からとする

特約 本件土地上に被告がビルを建築し、その一部の所有権を原告に移転したときは、被告は原告に地上権の三分の一を返還するが、これにより前記地代額は変更しない。

三  被告は、昭和三九年九月一六日、本件土地上に、鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付地上一〇階建で総面積三六五二・〇七平方メートルの堅固建物(以下、本件建物という)を建築し、同年一一月一三日、本件地上権の設定登記(東京法務局新宿出張所同日受付第二五六一六号)を得た。

四  ところで、本件地上権設定契約で地代の算定方法として約定された「本件土地の固定資産税評価額に一〇〇〇分の二を乗じて得た額」の条項における「固定資産税評価額」とは、その字義及び地代は基本的には投下資本(土地の価格)の果実であることからして、課税上の技術概念にすぎない「固定資産税課税標準価格」ではなく、固定資産税に関する評価額、具体的には毎年の固定資産課税台帳への登録価格(以下、単に登録価格という。)の意味であることは明らかである。

五  本件土地の登録価格は別表(一)のとおりで、地代額は、同表地代額欄記載のとおりになるが、被告は、地代として、別表(二)記載のとおりの本件土地の固定資産税課税標準価格(以下単に課税標準価格という。)を基準にした額(別表(一)既払地代額欄記載のとおりの金額)の支払しかせず、昭和四九年四月一日から昭和五四年三月三一日までの分だけでも、別表(一)未払地代額欄記載のとおり、合計金五九七万七八八一円が未払になっている。

六  原告は、昭和五四年一一月一五日被告到達の内容証明郵便で、被告に対し、未払地代額が二年分以上となっていることを理由として、本件地上権の消滅を請求する旨の意思表示をした。

七  よって、原告は被告に対し、地上権設定契約に基づく地代のうち、消滅時効が完成していない昭和四九年四月一日から昭和五四年三月三一日までの未払地代金五九七万七八八一円及び各弁済期における各内金に対する各弁済期の翌日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、民法二六六条、二六七条に基づき、本件地上権設定登記の抹消登記手続をすることを求める。

(請求原因に対する認否)

一  請求原因第一ないし第三項の事実はすべて認める。

二  同第四項は否認する。

なお、本件地上権設定契約において地代算定の基礎として定められた「固定資産税評価額」とは「課税標準価格」の意味であり、地方税法三四九条にいう「固定資産税の課税標準」と同意語である。仮に「固定資産税評価額」の文言が原告の主張する如く「登録価格」と同旨であるとすれば、それは誤記したものである。

三  同第五項のうち、本件土地の登録価格が原告主張のとおりであること及び課税標準価格を基準にした金額を地代として支払ってきたことは認めるが、地代につき未払分があるとの事実は否認する。

四  同第六項の事実は否認する。

(抗弁)

被告は、昭和四一年一月二五日、原告の請求により、昭和三九年一〇月分から昭和四一年三月分までの地代として、金六万五五九二円を原告に支払ったが、右請求額は課税標準価格を基礎として算出されたものである。

右請求及び支払により、原告、被告間に、地代の算定基準として課税標準価格による旨の黙示の合意が成立した。

(抗弁に対する認否)

原告が、昭和四一年一月二五日、被告に対し、昭和三九年一〇月分から昭和四一年三月分までの地代として、課税標準価格を基礎として算出した金六万五五九二円の支払を請求し、被告が、右同日、右金額を支払った事実は認めるが、その余の事実は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因第一ないし第三項の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  そして、右争いのない事実に《証拠省略》によれば、原告は、昭和三七年以前から、本件土地上の住宅、車庫を撤去し、高層賃貸ビルを建築、所有することを考えていたところ、同年初めころ、被告が首都圏内の土地所有者との間で、被告のために地上権を設定し、訴外住宅金融公庫からの長期低利の融資により堅固な施設付住宅を建設し、施設及び住宅の一部を土地所有者に譲渡する契約をし、残りの住宅を被告の所有として、完成後公募などの方法で第三者に代金割賦の方式で分譲する業務を行なっていることを知り、被告の担当者と接渉した結果、被告との間で、本件土地に被告のために地上権を設定すると共に、被告が本件土地上に地下一階付地上一〇階建のビルを建築し、地上三階以下の施設及び住宅部分は原告に譲渡し、四階以上の住宅部分は被告が分譲する旨の大筋の合意ができ、被告は住宅金融公庫に対し、原告作成の本件土地使用承諾書を提出して、右ビル建築資金の融資申請を出したところ、住宅金融公庫は、同年一一月二一日、被告の分譲住宅分については金四六二九万円、原告譲渡分については金三三八一万円の合計八〇一〇万円の融資決定をなし、その間、原告は原告譲渡分について工事を請負った訴外株式会社辰村組に対して、工事資金計画及び将来の収益予測などの計画書を作成させたりし、その後、被告は、昭和三八年五月二〇日、内部の決裁を得たうえ、同月二一日、原告との間で、被告が本件土地上に地下一階付地上一〇階で総面積三六八三・四二三平方メートルの堅固建物を建築し、右建物のうち主として地下一階及び地上一ないし三階部分合計一一七一・一七三平方メートルを建設費相当分金七〇六二万円で原告に譲渡し、右代金の内金三六八一万円は契約締結と同時に支払い、残金三三八一万円に住宅借入事務経費を加えた金額は引渡しを受けた日から満一〇年間の月賦払いで支払い、右譲渡部分の所有権は代金完納時に原告に移転する旨の中高層耐火建築物の譲渡等に関する契約を締結し、同年八月一六日、住宅金融公庫との間で、前記資金の貸付契約を締結して、ビル建築に着工したが、工事の変更などがあって昭和三九年九月一六日、本件建物を完成し、右変更の結果、原告が被告に支払う代金は、一括払分は金三九四七万九〇〇〇円、分割払分は金二九四九万円の合計六八九六万九〇〇〇円と変更されたことを認めることができ、高澤証言中、右認定に反する部分は信用することができず、他に右認定に反する証拠はない。

三  そこで同第四項で、原告は本件地上権設定契約の地代に関する条項にある「固定資産税評価額」とは登録価格のことであると主張し、被告はこれを争っているので、右の点について判断する。

1(一)  固定資産税評価額という文言自体からは原告が主張する登録価格もしくは被告が主張する課税標準価格を意味するものとは認められないことは明らかであり、また地方税法三四一条以下において、固定資産税は土地は家屋の価格=適正な時価で固定資産課税台帳に登録された課税標準とする旨規定されており、これによれば、固定資産税評価額とは登録価格を意味するものともとれるが、一方、昭和三九年度に登録価格を時価に近づけるため、急激に値上げしたことにより、土地の税負担の急激な増加を調整するため、同法の附則に「昭和三九年度から昭和四一年度分までの固定資産税額は昭和三八年度の評価額の一・二倍の額を固定資産税算出の基礎」とする特例が設けられ、その後、右附則は一部修正され「昭和四一年度以降固定資産税額は前年度の評価額の一・一ないし一・三倍の額を固定資産税算出の基礎とする」とされているもので、右特例によって、固定資産税の課税標準は登録価格よりも低額に押えられており、これによれば、固定資産税評価額とは課税標準価格を意味するものとも考えられ、いずれとも断定できず、判例上及び講学上においても、固定資産税評価額なる文言は登録価格と課税標準価格のいずれをも意味するものとして使用されていることが明らかであり、したがって、固定資産税評価額という文言だけでは原告の主張を認めることはできない。また地代の基準を、地代が土地に対する投下資本の果実であるとしても、課税標準価格におくことは必ずしも妥当でないとは言えず、地代算出の一方法として課税標準価格を基準とすることも、合理的であるといえる。現に、昭和二七年建設省告示第一四一八号(地代家賃統制令による地代並びに家賃の停止統制額又は認可統制額に代るべき額等を定める告示)においては、課税標準価格を基準として地代を定めている。

(二)  本件地上権設定契約において、地代を登録価格の一〇〇〇分の二とする認める証拠は他には全くなく、前掲高澤証言によれば、右契約を締結するに際して生じた問題点は地上権という文言を空中権にするかという点だけであって、地代についてはなんら問題にならなかったことが窺われる。

2  他方、本件各証拠によれば、次の各事実が認められる。すなわち

(一)  第二項認定事実に《証拠省略》によれば、被告は中高層耐火建築物を建築するという業務目的のため、首都圏内の多数の土地所有者との間で、地上権設定契約を締結しているが、ほとんどの場合、地代額は課税標準価格に一〇〇〇分の三を乗じて得た金額としており、被告と同じ目的の訴外財団法人東京都住宅公社も同様にして地代を定めており、原告との間においても、多数の右事例と異なる地代の決定方法をとる理由が存在しないことが認められる。

(二)  《証拠省略》及び前掲高澤証言によれば、原告は、昭和三九年から昭和五二年まで、本件土地の地代について包括的に代理権を与えていた次男の訴外高澤郁男又は娘婿の訴外土谷祐大を通して、本件土地の地代として課税標準価格に一〇〇〇分の二を乗じて得た金額を請求し、受領してきたことが認められる。なお、前掲高澤証言中には、原告の請求金額は被告の誤った指示によるもので、原告側の無知によるものである旨の供述があるが、右証言によれば、土谷は宅地建物取引主任者の資格を持ち、また高澤郁男は、本件建物完成後、本件建物の原告譲受部分の賃貸、管理を業務とする会社の役員をしており、実質的には経営者であることが認められ、右事実からすれば、原告が昭和五二年まで、登録価格と課税標準価格の違いを知らないで、誤った地代を請求していたとは考えられず、右供述部分は信用することができない。

(三)  第一、第二項各認定事実に《証拠省略》によれば、原告と被告とは前記中高層耐火建築物の譲渡等に関する契約と並行して、住宅金融公庫との貸付契約の条件として本件土地について被告が地上権を取得することが必要であったことから、本件土地について地上権設定契約の交渉を進め、地上権の対価を金一二〇〇万円、地代は課税標準価格に一〇〇〇分の三を乗じて得た価額とすることで合意ができ、昭和三八年五月二〇日、被告の内部決裁を得て、同月二一日、本件土地につき右内容を骨子とする地上権設定契約を締結したが、その後、被告は、昭和三九年八月ころ、原告から、本件建物のうちの原告の譲渡部分の所有権が移転したときに、地上権が原告にないと困るので、本件土地の地上権の一部の譲渡の申し出を受けたので、原告と協議のうえ、同年九月二日、被告の内部決裁を受けて、同年秋ころ、改めて本件地上権設定契約を締結したことを認めることができる。

ところで、前掲高澤証言中には、昭和三八年五月二一日は原告が退院直後であって、本件土地につき地上権設定契約を締結したことはない旨の供述部分があるが、

(1) 乙第二八号証の原告の印影が原告の実印によるものであることは右高澤証言でも明らかであること

(2) 乙第二四号証、第二五号証の一、三、第三一号証は昭和三八年五月二一日に地上権設定契約がなされることが前提になっていること

(3) 甲第一号証の作成日を昭和三八年五月二一日に遡らせていること

(4) 原告が所有地である本件土地に明確な地上権設定契約が締結されていないのに、地上一〇階に及ぶ堅固建物を建築することを許すこととは考えられないこと

からすると、乙第二八号証の記載の不備を考慮しても、右供述部分は信用することができず、前記のとおりの地上権設定契約が締結されたと認めることができる。

なお、甲第一号証と乙第二八号証とでは、記載文言が異っており、地代の算出基準も課税標準価格から固定資産税評価額に変更されているが、前掲高澤証言によっても、本件地上権設定契約の際に地代について何ら問題とされておらず、従前の契約と同様と推認することができること、地方税法上の課税標準価格の特則を定めた附則ができて間もなく、被告の職員も不馴れであったこと、地上権設定契約の内容の変更は、専ら、地上権の一部を将来原告に移転する条項を付け加えることが主眼であったことなどから、地代の算出基準には変更がなかったと判断することが相当である。

(四)  成立に争いのない甲第六号証(被告と訴外高澤郁男との間における本件建物の住宅の譲渡契約書)によれば、分譲賦金の内訳としての地代に関する条項につき、第四条一項二号では「固定資産税標準価額」、第七条一項三号では、「固定資産税課税標準価額(格)」、物件目録(2)の地代に関する条項では「固定資産税評価額」の各文言が使用されており、これらが同一の意味内容を有するものとして使用されていることは明らかである。

3  したがって、契約の解釈に当たっては、契約文言のほか、当該契約により当事者の達成しようとした目的、契約締結に至る経過、契約締結後の事情等の諸般の事情をも総合して判断しなければならないところ、前記1及び2を総合すれば、原告と被告とは、本件地上権設定契約において、地代を本件土地の課税標準価格を意味する固定資産税評価額に一〇〇〇分の二を乗じて得た額とする旨合意したことを推認することができる。

四  被告が原告に対して、課税標準価格に一〇〇〇分の二を乗じて得た金額を本件土地の地代として支払ってきたことは当事者間に争いがなく、前項の判断によれば、被告は地代の支払を契約通りになしたと認められる。

五  よって、その余について判断するまでもなく、原告の請求は、いずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小松峻)

<以下省略>

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